日本先天異常学会はこのほど、神経管閉鎖障害の発症リスク低減へ葉酸サプリメントの摂取を推奨するメッセージを学会ホームページに掲載した。妊娠前4週-妊娠12週に葉酸サプリ0.4mg/日を摂取することで、児に神経管閉鎖障害が起きる可能性を減少させられることなどを説明。過去に神経管閉鎖障害を有する児を妊娠した女性はハイリスク群に該当するとして、摂取する場合は医師の管理下で行うことが必要とし、医療機関への相談を呼び掛けている。
神経管閉鎖障害(二分脊椎、無脳症、脳瘤)は妊娠6週頃(受精後4週頃)に発症し、脳と脊髄の働きを障害する先天異常だが、水溶性ビタミンの1種である葉酸の摂取で疫学的に発症リスクの低減が示されている。このため日本先天異常学会では、メッセージの中で英国や中国の臨床研究を紹介しながら、葉酸サプリ摂取の意義を強調した。
日本では2000年に厚生労働省が栄養補助食品からの葉酸摂取と神経管閉鎖障害の発症リスク低減に対して通知を発出しているが、同学会によると妊娠女性の葉酸サプリ摂取率は10-20%にとどまり、神経管閉鎖障害の発症率は減少傾向にないという。
葉酸サプリメントの摂取により神経管閉鎖障害の発症リスクを減らしましょう
日本先天異常学会は、神経管閉鎖障害(脳や脊髄の障害)の発症リスクを低減するた
めに次のメッセージを発信します。妊娠を計画する女性、妊娠が考えられる女性は、妊
娠前4週から妊娠12週まで葉酸サプリメント 400 マイクログラム = 0.4 mg/日を摂取す
ることで、お子さんに神経管閉鎖障害が起きる可能性が減少します。また、ご家族の中
に神経管閉鎖障害患者を持つ方と過去に神経管閉鎖障害を持つお子さんを妊娠した経
験がある方は、ハイリスク群と判断されます(神経管閉鎖障害を持つ児を妊娠する可能
性が比較的高い)。ハイリスク群の方は、医師の管理下での葉酸摂取が必要となります
ので、医療機関で相談してください。
神経管閉鎖障害(二分脊椎、無脳症、脳瘤)は妊娠6週頃(受精後4週頃)に発症し、
脳と脊髄の働きを障害します。このうち二分脊椎は、多くが出生後に治療を必要としま
す。生後早期の背中の手術治療に続き、水頭症、歩行障害、排泄障害などの治療に加え、
生涯にわたるリハビリテーションが必要になります。また、無脳症は生まれても生命の
維持が難しく、脳瘤では瘤を取る手術をしても神経学的障害が残る可能性があります。
神経管閉鎖障害は、水溶性ビタミンの1種である葉酸の摂取により疫学的に発症リス
クの低減が示された先天異常です。1991 年に英国から臨床研究が報告されました(1)。
過去に神経管閉鎖障害を持つ児を妊娠したハイリスク群の女性に葉酸 4 mg/日を投与
したところ、次子での再発防止効果が72%にのぼりました。その後1999 年には、中国
の初産婦の葉酸サプリメント0.4 mg/日の摂取が、同様の低減効果を示したことが報告さ
れました(2)。
本邦においては、2000 年に厚生省(現厚生労働省)が、妊娠を計画する女性に対し、
栄養バランスの取れた食事(葉酸量0.4 mg/日)に加えて栄養補助食品からの0.4 mg/日の
葉酸摂取による、神経管閉鎖障害の発症リスク低減について通知を出しました(3)。1
日全体での摂取量が1 mg程度(体重55kgとした場合)であれば、過剰摂取とはなりませ
ん(4)。しかし、妊娠女性の葉酸サプリメントの摂取は10-20%に留まり(5、6)、神
経管閉鎖障害の本邦発生率は減少傾向が示されていません(3、7)。
日本先天異常学会は、先天異常の発症リスクを低減する活動により、国民の健康と福
祉に貢献したいと願っています。
参考
1. MRC vitamin study research group. Lancet 1991. 338:131-137.
2. Berry et al. New England Journal of Medicine 1999. 341: 1485-1490.
3. 厚生省通達・児母第72号、平成12年12月
?http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1212/h1228-1_18.html
4. 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2015年版)、2014年
5. Kondo et al. Birth Defects Research (Part A) 2013. 97:610-615.
6. Obara et al. The Journal of Maternal-Fetal & Neonatal Medicine 2016.
DOI:10.1080/14767058. 2016.1179273
7. ICBDSR Annual Report 2014 with data for 2012
?http://www.icbdsr.org/filebank/documents/ar2005/Report2014.pdf