脳や脊髄の元となる「神経管」と呼ばれる管状の細胞の一部が塞がり、脳や脊髄が正しく成長できなくなる神経管閉鎖障害は先天性障害の1つで、無脳症や二分脊椎などを発症する。そうした障害を予防するために妊娠を考える女性が摂った方が良いとされる栄養素に「葉酸」がある。米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)は、妊娠可能な全ての女性に対し、出生児の神経管閉鎖障害を予防するため、0.4~0.8mgの葉酸が含まれるサプリメントを毎日摂取すべきとする勧告を公式サイトと医学誌「 JAMA 」で発表した。

妊娠の1カ月前から妊娠2~3カ月時に毎日摂取を

神経管閉鎖障害の予防には妊娠前後における葉酸摂取が有効であることが、複数の研究で示され、日本を含む世界各国で妊娠可能な年齢の女性に対して葉酸の摂取が薦められている。米国では、無脳症と二分脊椎を併せた神経管閉鎖障害の発症頻度は出産1万件当たり6.5件と報告されているという。

USPSTFは、妊娠を計画している女性はもちろんのこと、妊娠が可能な状況にある全ての女性に対し、毎日0.4~0.8mgの葉酸を摂取することを2009年、最も推奨レベルが高い「グレードA」の勧告として発表している。今回はそれ以降の新たな研究報告などのエビデンスを評価した結果、今回も最も推奨レベルが高い「グレードA」での勧告となったという。

米国における妊娠例の約半数は計画外妊娠であることから、妊娠を計画している女性だけでなく、妊娠可能な全ての女性に対して葉酸のサプリメントを毎日摂取するよう医師が助言すべきとしている。さらに、神経管の閉鎖は妊娠に気付かない初期の段階で完成するため、その予防には妊娠前からの葉酸摂取が重要とされているが、USPSTFでは葉酸サプリメント摂取のタイミングについて「妊娠の1カ月前から妊娠2~3カ月にかけて摂取することが重要」との見解を示している。

「食事からの摂取では不十分」としてサプリメント摂取を推奨

葉酸はホウレンソウやブロッコリーなどの緑黄色野菜やオレンジなどに含まれている他、米国では葉酸を添加した小麦粉やシリアル、パンなどの「葉酸強化食品」が流通しており、食事からの摂取も可能だ。しかし、2003~06年の米国民保健栄養調査(NHANES)によると、15~44歳の妊娠していない女性のうち推奨量の葉酸を摂取していたのは4人に1人程度だったという。

こうしたことから、食事のみで神経管閉鎖障害の予防に十分な葉酸を摂取できている女性は少ない現状を踏まえ、USPSTFは「推奨量の葉酸を含むマルチビタミンや妊婦用ビタミン(prenatal vitamin)、あるいは葉酸のみが含まれるサプリメントを毎日摂取してほしい」と呼びかけている。

日本では欧米諸国と比べ神経管閉鎖障害の発症頻度が低いとされているが、増加傾向にあるとの研究報告もあり、さらに食生活の多様化により、食物摂取の個人格差が大きくなり葉酸摂取が不十分な妊婦が増加する懸念がある。そのため旧厚生省が「食品からの摂取に加えて、いわゆる栄養補助食品からの葉酸(1日0.4mg)の摂取によって神経管閉鎖障害の発症リスクが低下すること、ただし医師の管理下にある場合を除き、摂取量が1日当たり1mgを超えるべきでない」とした通達を2000年に出している。